『大家の肖像画はなぜ私が近づくと息を止めるの?』
——なぜ息を止める?
────────────────────────
夜の掃除中。真紀が布を額へ近づけると、肖像画に見える修一の胸の動きが止まる。冒頭の字幕は即時表示。
辻 真紀「今、絵が息を止めた!」
真紀は額と動かない男を見比べる。字幕で場所、時刻、名前と関係を明示する。
辻 真紀「大家さんの絵だよね……。」
額の中の修一。肩の奥には、外された本物の肖像画の端と黒い服の描かれた部分が斜めに見える。真紀が入居時の指示を口にする。
辻 真紀の声が響いた。「入居した時、大家さんに言われた。」
辻 真紀の声が響いた。「この絵は外すなって。」
真紀はガラスを大きく拭く。修一の口元に重なる曇りは、ガラスの内側なので残る。
辻 真紀「曇りが、内側にある……。」
真紀が布を横へ動かすと、修一の目だけが追う。額の脇に金属のちょうつがいも見えている。
辻 真紀「今、目が布を追ったよね。」
真紀がもう近づかずに問いかける。修一はまた呼吸を止める。題名の問いを字幕でそのまま提示する。
辻 真紀「なんで近づくと、息を止めるの?」
真紀は布を握ったまま、額の方へ静かに確認する。まだ答えはない。
辻 真紀「これ、絵じゃないの?」
感動の山: 怖さの頂点。修一が初めて絵の姿勢をやめ、真紀を直視して答える。決め台詞の後は無言で見つめ続ける。
須藤 修一「絵じゃない。僕ののぞき窓。」
修一が額のガラスを開けながら、奥に置いていた本物の肖像画を持ち上げる。絵には今の修一と同じ黒い服が描かれている。撮影場所は真紀の部屋のまま。
須藤 修一「毎晩、絵を外してた。」
須藤 修一「裏は隣の、僕の部屋なんだ。」
真紀は白い布を下げたまま動けない。修一は開いた窓の奥で本物の肖像画を持ち、毎晩見ていた目的を言い切る。絵と生身の顔が並んだ状態で暗転して完結。
須藤 修一「寝たかどうか、毎晩ここで見てた。」