『隣の席の同僚が、毎朝わたしの声で独り言をつぶやく』
——隣の同僚・柏木祐介が、私の声で?
────────────────────────
冒頭から、画面外の祐介が真智とまったく同じ声で話す。真智はスマホを握ったまま、恐怖で固まる。
柏木 祐介の声が響いた。「今日も消してくれるんだよね」
隣の席の同僚の祐介が、真智の声そっくりで独り言をつぶやく。
柏木 祐介「今日も消してくれるんだよね」
小野寺 真智「今の、わたしの声に似てた……」
真智が手に持っているスマホを低く構えて操作し、こっそり祐介の独り言を録音する。
昼休み、真智が録音を聞き返すと自分の声で同じ言葉が再生される。
柏木 祐介の声が響いた。「今日も消してくれるんだよね」
小野寺 真智「これ、わたしの声そのもの……」
真智が祐介の席へ行き、スマホを差し出して問い詰める。
小野寺 真智「なんで、わたしと同じ声が出るの」
祐介がうつむいて、毎朝あなたの声を覚えて練習していると打ち明ける。
柏木 祐介「毎朝、小野寺さんの声を聞いて」
柏木 祐介「自分の声に重ねる練習をしてた」
真智は、自分が毎日消している音声データに、自分自身の声も含まれていることを口にする。
小野寺 真智「わたし、毎日、依頼された音声データを消してる。自分の声も……」
祐介は、消される真智の声を自分の中に残すために練習したと明かす。真智は自分の声のデータを明日から消さないと約束するが、彼の中に自分の声が残っていることに怯える。最後の二秒は無言。
柏木 祐介「消される小野寺さんの声を、僕の中に残したくて」
小野寺 真智「わたしの声のデータ、明日から消さないでおく」
翌朝、祐介は自分の声で挨拶する。真智も笑って返すが、彼の中には自分の声が残っていると思うと、最後に笑顔がこわばる。
柏木 祐介「おはよう、小野寺さん」
小野寺 真智「今の、柏木くんの声だ」
小野寺 真智「おはよう、柏木くん」