表示の設定

本文の文字の大きさ
背景
書体
行間
余白
向き
画面全体の文字サイズ

ボタンやメニューも含めて全体を拡大・縮小します。BunCho・スタジオと共通の設定です。

『最後のランドセル』 ・ AI BunCho 公式

第2話第2話:映像脚本・カット割り台本

Instagram・TikTokなどは、端末の共有メニューまたはリンクをコピーして共有してください。投稿は各アプリで確認します。

2026/10/23 公開・1.0万字

【公式映像脚本】『最後のランドセル』

■ あらすじ

閉店まであと3日。72歳のかばん職人のもとに、アメリカから来た少女が古い赤いランドセルを持ち込んだ。

それは、亡くなった母が34年前に使っていたランドセルだった。

少女の願いは、母が描いた一つの星を消さずに残すこと。

古い物に残る思い出と、日本の職人の仕事を描く、オリジナルの感動ボイスドラマ。

■ 登場人物

・高橋清次

・高橋直人

・エマ・ウィルソン

・ダニエル・ウィルソン

・少年時代の直人

・真理子(1992年・小学1年生)

■ 本編カット割り台本

【シーン 01】

◆ 01-1

 ト書き:10月20日(火)午後 高橋かばん修理店。

 エマ・ウィルソン「お願いです! その星を消さずに、直してください!」

◆ 01-2

 高橋清次「……このまま普通に使えるように直すには、裏の布を取り替えなきゃならん」

◆ 01-3

 エマ・ウィルソン「だめです!」

◆ 01-4

 エマ・ウィルソン「その星は……亡くなったママが、子供のころに描いたものなんです!」

◆ 01-5

◆ 01-6

 高橋清次「……そうか」

◆ 01-7

 高橋直人「父さん! 金曜日で店は閉めるんだぞ!」

 高橋直人「もう、新しい仕事は受けられない!」

◆ 01-8

◆ 01-9

 nar「閉店まで、あと3日」

◆ 01-10

 nar「72歳の職人は、この少女の願いをかなえることができるのか」

◆ 01-11

【シーン 02】

◆ 02-1

 ト書き:46年間、かばんを直してきた男。

 nar「東京の下町に、小さなかばん修理店があった」

 nar「店の名前は、高橋かばん修理店」

◆ 02-2

 nar「店主の清次は72歳。26歳のときから、46年間、ここで仕事を続けてきた」

◆ 02-3

◆ 02-4

 nar「持ち手がちぎれたかばん」

◆ 02-5

 nar「金具が外れたランドセル」

◆ 02-6

 nar「持ち主がどうしても捨てられない、大切な品物」

◆ 02-7

 nar「清次は、そんな物を一つずつ直してきた」

◆ 02-8

 nar「けれど、この店はもうすぐなくなる」

◆ 02-9

◆ 02-10

 nar「建物が古くなり、取り壊されることになったのだ」

◆ 02-11

 nar「妻と二人で始めた店だったが、その妻も4年前に亡くなった」

◆ 02-12

 高橋清次「……長いこと、働いたな」

◆ 02-13

 nar「そんな閉店間際の店に、一組の外国人親子がやって来た」

【シーン 03】

◆ 03-1

 ト書き:34年前の赤いランドセル。

 ダニエル・ウィルソン「こんにちは。まだ修理をお願いできますか?」

◆ 03-2

 高橋清次「品物を見てからになりますが……どうぞ」

◆ 03-3

 エマ・ウィルソン「これです」

◆ 03-4

 高橋清次「おや……ずいぶん古いね」

◆ 03-5

 エマ・ウィルソン「34年前のランドセルです」

◆ 03-6

 高橋清次「34年前?」

◆ 03-7

 エマ・ウィルソン「はい。1992年に、私のママが小学校で使い始めました」

◆ 03-8

 エマ・ウィルソン「ママは日本で生まれました」

 エマ・ウィルソン「大人になってアメリカに来て、私が生まれました」

◆ 03-9

 エマ・ウィルソン「でも、2年前に……亡くなりました」

◆ 03-10

 ダニエル・ウィルソン「妻は、このランドセルをずっと保管していたんです」

 ダニエル・ウィルソン「娘が遺品を整理しているときに見つけました」

◆ 03-11

 高橋清次「……そうでしたか」

◆ 03-12

 エマ・ウィルソン「私、小さいころ、ママに日本の学校の話をしてもらうのが大好きでした」

◆ 03-13

 エマ・ウィルソン「桜が咲いた日に入学したこと」

 エマ・ウィルソン「友達と一緒に、毎日このかばんを背負って歩いたこと」

◆ 03-14

 エマ・ウィルソン「このランドセルには、ママの思い出がいっぱい入っています」

◆ 03-15

 エマ・ウィルソン「だから、捨てたくないんです」

【シーン 04】

◆ 04-1

 ト書き:直せば消えてしまうもの。

 高橋清次「肩ひもの根元が破れている」

◆ 04-2

◆ 04-3

 高橋清次「ふたの裏も、だいぶ傷んでいるね」

◆ 04-4

 高橋清次「この革は長い年月で弱くなっている。前と同じように背負うのは難しい」

◆ 04-5

 エマ・ウィルソン「……そうですか」

◆ 04-6

 高橋清次「新品みたいに直すなら、傷んだところを大きく取り替えるしかない」

◆ 04-7

 高橋清次「特に、この裏地は……」

◆ 04-8

 エマ・ウィルソン「待ってください!」

 エマ・ウィルソン「この星は、残せますか?」

◆ 04-9

 高橋清次「ここを全部取り替えたら、星もなくなってしまう」

◆ 04-10

 エマ・ウィルソン「それだけは、いやです」

◆ 04-11

 高橋清次「……どうして、この星がそんなに大切なんだい?」

◆ 04-12

 エマ・ウィルソン「ママが、初めて小学校に行った日に描いたんです」

◆ 04-13

 エマ・ウィルソン「学校に行くのが怖かったから、自分で勇気が出るように描いたって」

◆ 04-14

 エマ・ウィルソン「ママは私にも言いました」

◆ 04-15

 エマ・ウィルソン「怖くなったら、この星を思い出して、一歩だけ前に進んでごらんって」

◆ 04-16

 エマ・ウィルソン「だから、ほかのところが古くてもいいです」

 エマ・ウィルソン「この星だけは、残したいんです」

【シーン 05】

◆ 05-1

 ト書き:息子が反対した理由。

 高橋直人「父さん。ちょっと待って」

 高橋直人「今日、新しい仕事は受けないって決めたじゃないか」

◆ 05-2

 高橋清次「……ああ」

◆ 05-3

 高橋直人「金曜日には、道具を全部運び出さなきゃいけない」

 高橋直人「それに、最近は長く働くと疲れるって言ってただろ」

◆ 05-4

 高橋清次「分かってる」

◆ 05-5

 高橋直人「父さんは、いつもそう言うんだ!」

◆ 05-6

 高橋直人「昔から、仕事を頼まれたら何でも引き受けて」

 高橋直人「俺との約束まで後回しにしてきた」

◆ 05-7

 高橋直人「俺が小学生だったころの、最後の野球大会……覚えてる?」

◆ 05-8

 高橋清次「……覚えてるよ」

◆ 05-9

 高橋直人「見に来てくれるって約束したのに、父さん、来なかった」

 高橋直人「試合が終わってから、店の仕事が終わらなくてって言ったよな」

◆ 05-10

◆ 05-11

◆ 05-12

 少年時代の直人「父ちゃん、今日こそ来てくれるって言ったのに……」

◆ 05-13

 高橋直人「俺は、仕事が嫌いなわけじゃない」

 高橋直人「父さんが倒れるまで働いてほしくないんだ」

◆ 05-14

◆ 05-15

 nar「清次は、何十年も前の約束を、今でも覚えていた」

 nar「そして、息子がそのことをまだ忘れていないことも、初めて知った」

【シーン 06】

◆ 06-1

 ト書き:少女が本当に欲しいもの。

 エマ・ウィルソン「あの……」

 エマ・ウィルソン「私のために、けんかしないでください」

◆ 06-2

 高橋直人「ごめんね。大きな声を出して」

◆ 06-3

 エマ・ウィルソン「私、土曜日にアメリカに帰ります」

 エマ・ウィルソン「二週間後に、学校で家族の思い出を発表する日があるんです」

◆ 06-4

 エマ・ウィルソン「みんなの前で、ママが日本で育った話をしたいんです」

◆ 06-5

 エマ・ウィルソン「でも、私は人前で話すのが苦手で……」

 エマ・ウィルソン「ママのことを思い出すと、今でも泣いてしまいます」

◆ 06-6

 高橋清次「そうか……」

◆ 06-7

 エマ・ウィルソン「だから、この星があれば、頑張れると思うんです」

◆ 06-8

 エマ・ウィルソン「ランドセルは、背負えなくてもいいです」

 エマ・ウィルソン「学校の机に、置いて見せたいだけなんです」

◆ 06-9

 高橋清次「……背負わなくても、いいのかい?」

◆ 06-10

 エマ・ウィルソン「はい」

◆ 06-11

 高橋清次「毎日、開けたり閉めたりもしない?」

◆ 06-12

 エマ・ウィルソン「はい。大事に飾ります」

◆ 06-13

◆ 06-14

 高橋清次「それなら……方法はあるかもしれん」

◆ 06-15

 高橋直人「父さん?」

◆ 06-16

 高橋清次「普通に使えるようにするんじゃない」

 高橋清次「星を残したまま、飾れる形にする修理だ」

【シーン 07】

◆ 07-1

 ト書き:最後の依頼。

 高橋清次「エマさん。正直に話しておくよ」

 高橋清次「古い革を、新品みたいに強くすることはできない」

◆ 07-2

 高橋清次「でも、内側に支えを作って、破れたところを補強すれば、飾るための形は整えられるかもしれない」

◆ 07-3

 高橋清次「星のある部分は、できるだけ触らずに残す」

◆ 07-4

 エマ・ウィルソン「できますか?」

◆ 07-5

 高橋清次「……やってみる」

 高橋清次「ただし、途中でこれ以上傷つける危険があると分かったら、作業を止める」

◆ 07-6

 高橋清次「勝手に、星の部分を取り替えたりはしない。約束するよ」

◆ 07-7

 エマ・ウィルソン「はい!」

◆ 07-8

 高橋清次「修理代は、一万二千円」

◆ 07-9

 ダニエル・ウィルソン「お願いします」

◆ 07-10

 高橋清次「木曜日の午後5時までに、できるところまで仕上げる」

◆ 07-11

 高橋直人「……父さん」

◆ 07-12

 高橋清次「これを最後の依頼にする。金曜日は予定どおり店を閉める」

◆ 07-13

 nar「こうして、清次の最後の仕事が始まった」

【シーン 08】

◆ 08-1

 ト書き:10月21日(水)午前。

 nar「次の日、清次は朝から作業を始めた」

◆ 08-2

 nar「けれど、星の周りをよく見ると、予想より状態が悪かった」

◆ 08-3

 高橋清次「……思ったより、ひどいな」

◆ 08-4

 nar「星が描かれている裏地は、端から少しずつ裂け始めていた」

◆ 08-5

 nar「全部取り替えれば、見た目はきれいになる」

◆ 08-6

 nar「でも、それでは星がなくなる」

◆ 08-7

 nar「反対に、何も手を加えなければ、裏地の破れは広がってしまうかもしれない」

◆ 08-8

 高橋清次「ここを無理に縫えば、余計に裂けてしまう……」

◆ 08-9

◆ 08-10

 nar「清次は針を置いた」

 nar「今の方法では、この星を安全に残せない」

◆ 08-11

 nar「約束した木曜日の午後5時まで、残された時間は一日半だった」

【シーン 09】

◆ 09-1

 ト書き:10月21日(水)午後。

 高橋直人「父さん。昼飯、まだ食べてないだろ」

◆ 09-2

 高橋清次「……あと少しだけ」

◆ 09-3

 高橋直人「またそれか」

◆ 09-4

 高橋直人「そんなに難しいなら、無理しなくてもいいんじゃないか」

◆ 09-5

 高橋清次「……あの子の母親が描いた星だけは、残してやりたいんだ」

◆ 09-6

 高橋直人「うん」

◆ 09-7

 高橋清次「だが、星を残そうとすると、ふたの裏が弱いままになる」

 高橋清次「形を整えるために全部張り替えたら、星がなくなる」

◆ 09-8

 高橋直人「……ちょっと待って」

 高橋直人「エマちゃん、何て言ってた?」

◆ 09-9

 高橋清次「背負わなくていい。机に置いて飾りたいと」

◆ 09-10

 高橋直人「だったら、ランドセルだけで立たせなくてもいいんじゃないか?」

◆ 09-11

 高橋清次「……どういうことだ?」

◆ 09-12

 高橋直人「内側に、目立たない支えを入れてさ」

 高橋直人「その支えで形を保てば、古い裏地に無理な力をかけなくて済むだろ?」

◆ 09-13

◆ 09-14

 高橋清次「……そうか」

◆ 09-15

 高橋直人「俺は修理のことは分からないけど、背負わないなら、それでいいんじゃないかと思って」

◆ 09-16

 高橋清次「……いや、いい考えだ」

 高橋清次「星の周りは触らずに、別の部分で支える」

 高橋清次「それなら、できるかもしれん」

◆ 09-17

 高橋清次「直人。ありがとう」

◆ 09-18

 高橋直人「……いいから、まず飯を食おう」

【シーン 10】

◆ 10-1

 ト書き:10月21日(水)夕方。

 高橋直人「……これ」

 高橋直人「俺のグローブじゃないか」

◆ 10-2

 高橋清次「ああ。あの大会のころに使っていたやつだ」

◆ 10-3

 高橋直人「まだ持ってたのか」

◆ 10-4

 高橋清次「お前が野球をやめたあと、店に置いていったからな」

◆ 10-5

 高橋直人「ボロボロだな」

◆ 10-6

 高橋清次「……捨てられなかった」

◆ 10-7

 高橋直人「どうして?」

◆ 10-8

 高橋清次「お前が毎日、一生懸命練習していたのを覚えているからだ」

◆ 10-9

 高橋直人「だったら……なんで試合には来てくれなかったんだよ」

◆ 10-10

 高橋清次「……あの日は、どうしても修理を終わらせなきゃいけないと思った」

◆ 10-11

 高橋清次「でも、ほかの人に事情を話して、少し待ってもらうことだってできたはずだ」

 高橋清次「俺が、仕事を優先したんだ」

◆ 10-12

 高橋清次「すまなかった」

 高橋清次「取り返しのつかない時間だったな」

◆ 10-13

 高橋直人「……そうだよ」

◆ 10-14

 高橋直人「でも、今日はちゃんと休んでくれ」

 高橋直人「エマちゃんのためにも、無理して倒れたりするなよ」

◆ 10-15

 高橋清次「……分かった」

◆ 10-16

 nar「二人の間にあった長年のわだかまりは、まだ消えていなかった」

 nar「それでも、この日は少しだけ、互いの気持ちを話すことができた」

【シーン 11】

◆ 11-1

 ト書き:10月22日(木)午前。

 nar「木曜日の朝」

 nar「清次は、直人の言葉を思い出しながら、新しい方法で修理を始めた」

◆ 11-2

 nar「弱い部分を無理に縫うのではなく、傷んでいない場所に力がかかるよう、内側から形を支える」

◆ 11-3

 nar「破れた肩ひもは、裏側から補強する」

◆ 11-4

 nar「そして、星の描かれた裏地には、できるだけ手を加えない」

◆ 11-5

 nar「もちろん、これで毎日背負えるようになるわけではない」

 nar「古い革は、これからも大切に扱う必要がある」

◆ 11-6

 nar「それでも、母親が残した姿をできるだけ変えずに、飾ることはできる」

◆ 11-7

 高橋清次「……よし」

◆ 11-8

 高橋清次「星は……残せたな」

◆ 11-9

 nar「木曜日、午後4時10分」

 nar「約束の時間まで、あと50分」

◆ 11-10

 nar「清次は最後に全体を確認し、ランドセルを柔らかい布で包んだ」

【シーン 12】

◆ 12-1

 ト書き:10月22日(木)午後5時。

 エマ・ウィルソン「こんにちは!」

◆ 12-2

 高橋清次「やあ。待っていたよ」

◆ 12-3

 エマ・ウィルソン「ランドセルは……?」

◆ 12-4

◆ 12-5

 エマ・ウィルソン「……あ」

◆ 12-6

 エマ・ウィルソン「ママの……ランドセル」

◆ 12-7

 高橋清次「新品みたいには、できなかった」

 高橋清次「この傷も、古い色も、そのままだ」

◆ 12-8

 高橋清次「背負ったり、何度も開け閉めしたりはしないでほしい」

 高橋清次「でも、飾っておくことはできると思う」

◆ 12-9

 エマ・ウィルソン「……はい」

◆ 12-10

 高橋清次「それから……」

◆ 12-11

◆ 12-12

 高橋清次「この星も、残したよ」

◆ 12-13

 エマ・ウィルソン「……!」

 エマ・ウィルソン「ママの星……」

◆ 12-14

 エマ・ウィルソン「ママ……」

 エマ・ウィルソン「ちゃんと、ここにいたんだね……」

◆ 12-15

 エマ・ウィルソン「ママは、この星を描いたとき、学校に行くのが怖かったって言ってました」

◆ 12-16

 エマ・ウィルソン「私も、発表会が怖いです」

 エマ・ウィルソン「でも……これを持って、頑張って話します」

◆ 12-17

 高橋清次「きっと、お母さんも喜ぶよ」

◆ 12-18

 エマ・ウィルソン「……ありがとうございます」

◆ 12-19

 エマ・ウィルソン「ママの大切なものを、大切に直してくれて、本当にありがとう」

【シーン 13】

◆ 13-1

 ト書き:日本の職人に伝えたい。

 エマ・ウィルソン「あの……もう一つ、お願いがあります」

◆ 13-2

 高橋清次「なんだい?」

◆ 13-3

 エマ・ウィルソン「完成したところを、撮ってもいいですか?」

◆ 13-4

 高橋清次「手元だけなら、いいよ」

◆ 13-5

◆ 13-6

 ダニエル・ウィルソン「エマは学校の発表会で、この修理のことも紹介したいそうです」

◆ 13-7

 エマ・ウィルソン「はい」

 エマ・ウィルソン「日本には、古いものを、こんなに大切に直す人がいるって、伝えたいです」

◆ 13-8

 高橋清次「……ありがとう」

◆ 13-9

 エマ・ウィルソン「学校で発表したあと、ネットにも動画を載せてもいいですか?」

◆ 13-10

 高橋清次「顔は映さず、手元だけなら構わないよ」

◆ 13-11

 高橋直人「店の名前と、俺が管理している連絡用メールも載せていいよ。父さんの許可を取ってからにしてくれれば」

◆ 13-12

 高橋清次「……ああ。それなら、いいよ」

◆ 13-13

 nar「こうして、エマは完成したランドセルと、職人の手元を短い動画に残した」

 nar「それが後に、海の向こうで広まることになる」

【シーン 14】

◆ 14-1

 ト書き:10月23日(金)夕方 閉店の日。

 nar「金曜日」

 nar「高橋かばん修理店は、予定どおり閉店の日を迎えた」

◆ 14-2

 nar「清次は道具を箱に入れ、最後に店の中を見渡した」

◆ 14-3

◆ 14-4

 高橋清次「……長い間、ありがとう」

◆ 14-5

 高橋直人「父さん。これ、どうする?」

◆ 14-6

 高橋清次「お前のグローブだ。持って帰ってもいいぞ」

◆ 14-7

 高橋直人「……なあ、父さん」

 高橋直人「これ、まだ直せるかな」

◆ 14-8

 高橋清次「昔みたいに使うのは難しいだろうが、飾れる形にはできると思う」

◆ 14-9

 高橋直人「だったら……今度、一緒に直さない?」

◆ 14-10

 高橋清次「……一緒に?」

◆ 14-11

 高橋直人「うん。父さんの仕事、少し教えてほしいんだ」

 高橋直人「俺も、もう44歳だけどさ」

 高橋直人「今からでも、一緒に何かやれたらいいなって」

◆ 14-12

 高橋清次「ああ。もちろんだ」

 高橋清次「今度は、仕事よりお前との約束を優先するよ」

◆ 14-13

 nar「昔の約束を破った事実は、消えない」

 nar「けれど、これから一緒に過ごす時間は、まだ作ることができる」

◆ 14-14

◆ 14-15

 nar「こうして、46年間続いた店は、静かに幕を下ろした」

【シーン 15】

◆ 15-1

 ト書き:11月6日(金)アメリカ。

 nar「二週間後、アメリカ」

 nar「エマは学校の発表会に、母のランドセルを持っていった」

◆ 15-2

◆ 15-3

 エマ・ウィルソン「これは、私の母が日本で使っていたランドセルです」

 エマ・ウィルソン「母は、もうこの世にはいません」

◆ 15-4

 エマ・ウィルソン「でも、このランドセルを見ていると、母が子供だったころを想像できます」

◆ 15-5

 エマ・ウィルソン「ここに、小さな星があります」

 エマ・ウィルソン「母が初めて学校へ行った日に描いた星です」

◆ 15-6

 エマ・ウィルソン「母も私と同じように、怖がりでした」

 エマ・ウィルソン「でも、星を描いて、勇気を出して学校に行ったそうです」

◆ 15-7

 エマ・ウィルソン「日本の職人さんが、この星を消さずに、ランドセルを直してくれました」

◆ 15-8

 エマ・ウィルソン「古いからといって、何でも新しくすればいいわけじゃない」

 エマ・ウィルソン「大切な思い出は、そのまま残した方がいいこともあります」

◆ 15-9

 エマ・ウィルソン「私は今日、勇気を出してここに立っています」

 エマ・ウィルソン「ママが、そうしたように」

◆ 15-10

◆ 15-11

 nar「発表は無事に終わった」

 nar「エマは父と相談し、許可を得て撮影した、完成したランドセルと職人の手元の映像を、その日のうちにインターネットに公開した」

◆ 15-12

 nar「動画は、家族や友人から少しずつ広まっていった」

◆ 15-13

 nar「一週間後、その再生回数は41万回を超えていた」

◆ 15-14

 nar「海を越えて伝わったのは、高価な技術だけではなかった」

 nar「物と一緒に、持ち主の思い出を守ろうとする、一人の職人の姿だった」

【シーン 16】

◆ 16-1

 ト書き:11月13日(金)清次の自宅。

◆ 16-2

 高橋直人「父さん、エマちゃんの動画、見た?」

◆ 16-3

 高橋清次「いや。どうした?」

◆ 16-4

 高橋直人「41万回も見られてるんだよ」

◆ 16-5

 高橋清次「……そんなにか」

◆ 16-6

 高橋直人「それに、連絡用のメールにも、12件の問い合わせが来てる」

 高橋直人「古いかばんを直してほしいって」

◆ 16-7

 高橋清次「……もう店は閉めたんだがな」

◆ 16-8

 高橋直人「分かってる」

 高橋直人「だから、全部引き受けなくていい」

◆ 16-9

 高橋直人「父さんのグローブを一緒に直す場所を探してたら、革細工のできる小さな貸し工房を見つけたんだ」

 高橋直人「週に二日だけ借りられるらしい」

◆ 16-10

 高橋直人「よかったら、今度一緒に見に行かない?」

◆ 16-11

 高橋清次「……俺に、また働けって言うのか?」

◆ 16-12

 高橋直人「違うよ」

 高橋直人「父さんがやりたいなら、無理のない範囲でやればいいってこと」

◆ 16-13

 高橋直人「月に何個もやらなくていい」

 高橋直人「それに、まずは俺のグローブからだ」

◆ 16-14

 高橋清次「そうだったな。約束したんだった」

◆ 16-15

 高橋直人「忘れるなよ」

◆ 16-16

 高橋清次「ああ。今度は忘れん」

◆ 16-17

 nar「二人は工房を見学し、無理なく使えることを確かめた」

 nar「清次は、週二日だけそこで修理をすることにした」

◆ 16-18

 nar「受ける依頼は月に四件まで」

 nar「仕事のない日は休み、息子との時間も作る」

【シーン 17】

◆ 17-1

 ト書き:数週間後 貸し工房。

 高橋直人「父さん。この傷はどうやって直すの?」

◆ 17-2

 高橋清次「ここはね、全部を新しくする必要はないんだ」

 高橋清次「古い革をできるだけ残して、弱いところだけを支える」

◆ 17-3

 高橋直人「……あのランドセルみたいに?」

◆ 17-4

 高橋清次「そうだ」

◆ 17-5

 高橋清次「やってみるか?」

◆ 17-6

 高橋直人「俺にできるかな」

◆ 17-7

 高橋清次「失敗しても、やり直せるところから始めよう」

◆ 17-8

◆ 17-9

 nar「72歳の職人は、46年間、人の大切なものを直してきた」

 nar「古いものが、すべて元どおりになるわけではない」

◆ 17-10

 nar「過ぎた時間だって、戻すことはできない」

 nar「でも、大切なものを、これからも守っていくことはできる」

◆ 17-11

 nar「最後の仕事になるはずだった、34年前の赤いランドセル」

 nar「その小さな星は、一人の少女に勇気を与えた」

◆ 17-12

 nar「そして、一人の職人にも、もう一度前に進む勇気をくれた」

◆ 17-13

 高橋清次「……さて。ゆっくり、直していこうか」

◆ 17-14

段落へのコメント

誤字・矛盾を報告

本文の文字を選ぶと、段落へのコメントや誤字・矛盾の報告ができます。

★で評価

レビューを書く

応援コメント 0

ログインして応援コメントを書く

通報する

理由