『家で小声の電話をした私に、その内容が手紙で届いた』
——助けて
────────────────────────
夜の由紀の居間。由紀は自分に届いた不気味な手紙を握り、画面外の友人に助けを求める。手紙は裏面だけを映す。
佐藤 由紀「電話の内容まで手紙に。助けて。」
窓の横に立つ恵子が由紀を安心させる。恵子の耳は聞こえにくいが、視線は由紀の口元に正確に向いている。親切そうな表情は作ったもの。
中村 恵子「怖かったね。そばにいるよ。」
由紀は手紙を胸元で持ったまま、昨日の電話のことを説明する。恵子の聞こえにくさから、調べる力を低く見積もる。
佐藤 由紀「昨日の電話の小声まで知られてる。」
佐藤 由紀「耳が遠いのに、調べられる?」
恵子が閉じた窓へ視線を移す。窓の外は地面と同じ高さの暗い通路で、人は映らない。窓に顔の反射は出さない。
中村 恵子「窓は閉まってるね。大丈夫。」
恵子が窓から由紀の口元へ視線を戻し、昨日の電話で由紀が言った引っ越しの言葉を口にする。
中村 恵子「「今月引っ越す」って言ったんだね。」
由紀が手紙から目を上げる。恵子に引っ越しの言葉を伝えていないことをはっきり言い、初めて友人を疑う。
佐藤 由紀「その言葉、手紙には書いてない。」
佐藤 由紀「恵子にも言ってない。」
由紀が恵子へ顔を向けたまま、情報の出どころを問いただす。主人公自身の決断を顔と声で見せる。
佐藤 由紀「どこで聞いたの?」
恵子が由紀の口元を見たまま、昨日の窓越しの読唇と手紙を書いた事実を明かす。恵子の隠れていた能力が、友人同士の立場を逆転させる。
中村 恵子「昨日、窓の外から唇を読んで書いたの。」
怖さの山。恵子は、由紀を怖がらせれば毎日ここに呼ばれるという目的を言い切る。台詞の後は口を閉じ、由紀の口元を見つめたまま無音の間を残す。
中村 恵子「怖がれば、毎日ここに呼ぶでしょ。」
由紀は恵子を見つめたまま言葉を失い、持っていた手紙を胸元から腰の高さまで下ろす。手紙を落としたり手放したりはしない。
恵子は家の中からカーテンを静かに閉める。窓全体が隠れた状態まで見せ、口を閉じた恵子の横顔で終える。新しい秘密や事件は足さない。