『夫のカメラでコップを撮ったら、部屋から消えた』
——撮ると消える?
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由美が壁のくぼみの棚にあるコップをスマホで撮る。シャッター音と同時にコップが消える。開始から1秒までは「撮ると消える?」だけを表示し、1秒後からcaptionの「夜・自宅/家を出たい妻の由美」に切り替える。
松本 由美「撮ったコップが消えた!」
空の棚を見つめる由美に、そばにいた夫の浩二が頼む。木のイスはまだ壁際にある。
松本 浩二「出ていく前に、写真を撮らせて。」
由美は持ち主の浩二にスマホを返す。浩二が受け取り終えたところで切る。
松本 由美「これ、あなたのスマホでしょ?」
松本 浩二「うん。返して。」
カメラは浩二の肩のすぐ後ろに位置し、浩二と同じ方向からスマホ画面を見る。浩二がイスを撮ると、実物が消える。そのまま画面に寄り、消えたコップとイスが同じ居間にある写真を一瞬はっきり見せる。由美は浩二の向かい側にいて、このカットでは画面外。由美に向いているのはスマホの背面で、写真は見えない。
由美はイスの消えた床を見て後ずさる。コップのあった棚も空のまま。
松本 由美「イスまで消えた。何したの?」
浩二はスマホを胸元に持ち、由美を見て話す。スマホの画面は由美に見せない。
松本 浩二「なくしたくない物だけ、撮るんだ。」
由美が居間の出口へ向かおうとすると、浩二がスマホを向ける。由美が制止した直後、シャッターが鳴る。
松本 由美「私は出ていく。撮らないで。」
怖さの山。浩二が画面をこちらへ向けると、由美がコップとイスのある写真の中にいる。実際の出口の前には誰もいない。低い効果音を1回鳴らし、決め台詞のあと2秒以上を無言にする。
松本 浩二「写真の中なら、逃げられない。」
スマホ画面の写真だけを大きく映す。由美のそばには消えたコップとイスがある。由美は写真の縁から出ようとするが、その場から動けない。
松本 浩二の声が響いた。「コップもイスも、そこにあるだろ。」
画面が黒くなったスマホを、浩二が胸に抱える。背後の棚と床は空で、由美もいない。無言のまま暗転して終わる。