『MY IDOL HATES ME』第10話「無音の反逆』
——伊織(仲間、振付師)
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伊織が片足をその場で踏む。床を蹴り上げず、音を出すだけの安全な低い踏み込み。/足音一発を大きく。BGMなし。
伊織「踏め。」
伊織から律、レオ、ユウの順に同じ一歩が伝わる。全員が二拍止まり、一斉に息を吐く。/三回の靴音と一回の呼吸を基礎リズムにする。
伊織「音は、ここにある。」
伊織が開いた右掌を胸の前で止め、左肘をゆっくりほどく。律が同じ動きを受け、残る七人へ目線を送る。言葉の間は足を止める。/動きの停止に合わせ、床音も止める。
伊織「俺の振付だ。俺の名前で踊る。」
律「全員で、受け取る。」
凪がマイクを自分で持ち上げる。他の八人は掌を下げて静止し、凪の言葉を邪魔しない。/凪の肉声。既存曲を歌わず、文章として発する。客席のざわめきが一度だけ上がる。
凪「俺たちの記録を返せ。」
ユウの一歩が少し遅れる。レオは腕で引っ張らず、自分の足を止めてユウの呼吸を待つ。二人が同時に次の一歩へ進む。/一拍の空白を恐れず残す。呼吸から靴音へ。
レオ「遅れていい。置いてかない。」
ユウ「今は、ちゃんと息ができる。」
都からの『記録停止』という短文通知をセナが見て晴へ示す。晴は通知を払って録画を継続し、端末を固定台へ戻す。/通知は小さく一度だけ振動。足音は後列で続く。
セナ「切れって、来てる。」
晴「俺は、回し続ける。」
九人の掌が胸の高さで開く。腕を大きく振らず、肘の角度だけが隣へ一拍ずつ伝わる。律は客席を見て名乗る。/足音を止め、律の声と九人の呼吸のみ。
律「俺たちは、9人のNINE//VEIL。」
海が蓮の一歩前へ出かける。蓮が半歩横へ移り、海の掌と触れない距離で自分の掌を並べる。二人は同じ線で客席を見る。/布の擦れと二人分の靴音。
海「ひとりで前に出るな。」
蓮「じゃあ、隣へ。」
伊織が掌を閉じず、ゆっくり下ろす合図で九人が停止。短く礼をして袖へ戻る。客席の反応を勝利の大歓声にせず、散発的な拍手から広げる。/最後の一歩の後、拍手が少しずつ増える。
伊織「止めるのも、俺たちだ。」
正規アカウントの担当者通知が出る。サムネイルは黒い手袋と肩の一部だけで、恋人の顔や詳細を表示しない。晴の笑顔が消える。残り時間を一秒だけ進める。/拍手を遠ざけ、端末の通知音を一音。
晴「これ……俺が入れた予約だ。」