『迎えに来た武者は、すでに死んでいた』第1話「迎えに来た武者は、平家の亡霊だった』
——迎えに来た武者
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翌朝。宗平が芳一を見つめ、守れなかった事実に息を詰まらせる。
西村 宗平「耳だけに、経文がない。」
西村 宗平「芳一を守るはずが……。」
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昨夜へ戻る。芳一は自分の琵琶を抱え、疲れていても供養の演奏を引き受ける。
河野 芳一「疲れてても、供養なら琵琶を弾きます。」
武者は芳一に向かって礼儀正しく頼む。
武田 義久「平家の海での最期を、琵琶で。」
芳一が琵琶を弾き語る。細かな指先ではなく、亡くなった平家の悲しみを語る顔を主役にする。
西村 宗平の声が響いた。「親切に迎えに来た武者は何を持ち帰ったのか」
西村 宗平「芳一、誰に弾いている?」
最初の逆転。
西村 宗平「ここは墓地だ。相手は平家の亡霊だ。」
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同じ夜。芳一を経文で守るため、宗平は芳一を寺へ連れ戻した。首への経文はすでに書き終えている。左手前で後ろ向きの宗平が、右の芳一の額へ筆を運ぶ。芳一は口を閉じて待つ。琵琶は右奥の畳に置いてある。墨の線は読めない大きさと角度にする。
西村 宗平「寺なら守れる。体に経文を書く。」
経文を書き終えたあと。芳一の額と首には読めない墨の線があり、耳は肌のまま。芳一は僧を信じ、声を出さず待つと決める。衣服は変わらない。
西村 宗平の声が響いた。「経文で姿が消える。声は出すな。」
河野 芳一「黙って待ちます。」
宗平は入口脇の木の台に筆を置く。お勤めへ向かうことを告げる。
西村 宗平「筆は置く。お勤めに行く。声を出すな。」
宗平が退室したあと。芳一は沈黙を守る。武者の姿と装束を明瞭に見せる。
武田 義久「芳一。連れて帰るぞ。」
怖さの山。武者は芳一の耳の高さを見つめる。
武田 義久「耳だけでも、持ち帰る。」
耳を奪う出来事はカット間の起きる。芳一は寺の一室に残っている。武者はすでに袖を閉じ、袖口には新しい小さな血の染みがある。用を終えた武者が入口へ体を向ける。宗平の語りが、血の染みの意味を一度だけ言い切る。
西村 宗平の声が響いた。「芳一は、耳を奪われた。」
入口へ去る武者を左側の横顔で明瞭に映す。口は閉じたまま。両耳の位置と傷は柱に隠す。芳一は顔を武者の足音へ向け、口を閉じて動かない。
西村 宗平の声が響いた。「耳に経文を書き忘れた。だから、耳だけ見えた。」