『妻にだけ話したあの夜を、妻は先に知っていた』
——お雪の夫・巳之吉
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秘密を妻に指摘された巳之吉。妻を見つめたまま目を見開き、言葉を失う。
森岡 お雪の声が響いた。「あの夜、話すなと約束したでしょう。」
妻のお雪は夫を見返す。巳之吉は妻に聞いてほしかっただけだと訴えるが、妻は返事をしない。
森岡 巳之吉の声が響いた。「妻に聞いてほしいだけだ。」
森岡 巳之吉の声が響いた。「妻はなぜ誰にも話していない夜を知っているの」
*
昔の吹雪の夜。生きている茂作が小屋の中で巳之吉に呼びかける。
西村 茂作「巳之吉、ここで吹雪をしのごう。」
小屋の右の入口に白い女が入ったことを、巳之吉の視線と語りで示す。巳之吉は茂作に起きたことを語る。
森岡 巳之吉の声が響いた。「白い女が入って、茂作に息を吹いた。」
入口の白い女が巳之吉のほうへ近づく。顔は長い黒髪の横顔に隠れ、妻と同じ顔だとはまだ確かめられない。茂作の死は語りだけで伝える。
森岡 巳之吉の声が響いた。「茂作はもう動かない。次は俺だと思った。」
白い女は巳之吉を殺さず、若いから見逃すと言う。ただし誰にも話さないよう命じる。横顔は髪に隠れたまま。
森岡 お雪「若いあなたは見逃す。誰にも話さないで。」
*
数年後の同じ夜、夫婦の家へ戻る。巳之吉は子供たちが寝たあと、妻だけは信じて話せると思ったと打ち明ける。
森岡 巳之吉「子供も寝たし、お前になら話せると思った。」
巳之吉は目の前の妻を見つめ、昔の女と似ていたと告げる。口にしてから、妻の沈黙に怯える。
森岡 巳之吉「あの女は、お前によく似ていた。」
お雪は昔の白い女と同じ調子で口止めの言葉を繰り返す。服や髪は変わらず、夫だけを見ている。
森岡 お雪「誰にも話さないで。そう言ったでしょう。」
お雪の顔を髪に隠さず、はっきり映す。夫を冷たく見つめ、自分が茂作を凍らせた女だと明かす。顔の変形はしない。
森岡 お雪「茂作を凍らせたのは、この私よ。」
怖さの山。雪女は夫の目を見たまま、子供がいなければ殺していたと言う。
森岡 お雪「子供がいなければ、お前も殺していた。」
白い着物と長い黒髪の雪女を全身ではっきり見せてから、その姿が雪の粒にほどける。姿が完全に消え、床の上を雪だけが流れる。巳之吉の語りで採用した版を示し、物語の結論は繰り返さない。
森岡 巳之吉の声が響いた。「小泉八雲『怪談』「雪女」」
森岡 巳之吉の声が響いた。「(1904)に伝わる話。」