『終電を待つ柴犬』
——山あいの小さな駅で、柴犬のこむぎは毎晩、終電を待っている。
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山あいの小さな無人駅「ひぐらし台駅」で、赤柴のこむぎは毎晩ベンチに座り、終電を待っている。駅員が肩に毛布をかけても動かない。23時52分、ヘッドライトが近づき、仕事帰りの飼い主が降りてくる。こむぎと飼い主は、街灯の下を並んで帰っていく。
こむぎ(柴犬)(主人公)——白い前足と色褪せた青い首輪をした小さな赤柴。毎晩ひぐらし台駅で飼い主の終電を待つ。
美穂(飼い主(会社員))——都心まで片道2時間かけて通勤する若い女性。こむぎの待つ駅へ終電で帰ってくる。
老駅員(最終巡回の駅員)——こむぎにそっとチェック柄の毛布をかけてやる優しい老駅員。
秋の夜霧が立ちこめる山あいの小さな駅。裸電球がひとつ灯る木造ホームのベンチに、赤柴のこむぎがちょこんと座り、暗い線路の先を見つめている。
23時48分 ひぐらし台駅
遠くからカン、カン、と踏切の警報音が風に乗って届いた。こむぎの三角の耳がぴくりと立ち、冷たい夜気に白い息がふわりと溶ける。
その瞬間、空気が凍りついた。最終見回りの老駅員が歩み寄り、震えるこむぎの背中に小さなチェック柄の毛布をそっとかけた。それでもこむぎは一歩も動かず、線路の先を見つめ続けている。
夜霧を裂いて二両編成の終電のヘッドライトが近づいてくる。こむぎはベンチの上で立ち上がり、くるりと巻いた尻尾を懸命に振り始めた。
その瞬間、空気が凍りついた。プシューと扉が開き、コート姿の飼い主・美穂が降りてくる。両手を広げてしゃがみ込んだ彼女の胸へ、こむぎは毛布を揺らしながら飛び込んだ。
*
駅の明かりが消え、大きな秋の満月が照らす田舎道を、美穂とこむぎがぴったりと寄り添って歩いていく。二つの影が街灯の下でひとつに重なっていた。
おかえり
日常のわずかな綻びから始まった『終電を待つ柴犬』の真実は、静かな余韻を残して幕を閉じる。だが、彼らが選んだその先の未来はまだ誰も知らない。