朝日新聞が問う著作権保護のあり方、小説の書き手が考えたい引用と表現の境界
この記事の重要ポイント
- 約20年の取材から、権利行使の実務を描く
- 京大の式辞では、最終的に使用料を徴収せず
- 管理事業の競争と、利用を遠ざけるリスク
- 引用の役割と、対立する人物の目的を分けて考える
著作権を守る取り組みは、創作や表現の広がりとどう両立できるのでしょうか。朝日新聞デジタルは10月30日、JASRACを約20年取材した記者による記事を公開しました。権利行使の現場と、大学の式辞での歌詞利用をめぐる経緯から、小説の書き手にも関わる論点を整理します。
事実確認できたこと
約20年の取材から、権利行使の実務を描く
朝日新聞デジタルの記事では、著作権を担当する記者が2005年に日本音楽著作権協会(JASRAC)の本部を訪れ、その後も取材を重ねた経験を振り返っています。当時幹部だった菅原瑞夫氏との面会では、権利を実際に主張することを重く見る姿勢に触れたとしています。
記事が紹介する徴収の現場では、職員がカラオケを置く飲食店へ繰り返し出向き、契約に向けて話し合っていました。一方、拒否が続く場合には、利用の差し止めや損害賠償を求める対応も取ると説明しています。記者は、説得と法的対応を組み合わせる手法が、海外の大手IT企業との交渉にもつながっていると捉えています。
京大の式辞では、最終的に使用料を徴収せず
2017年、京都大学の山極寿一総長(当時)は、入学式の式辞にボブ・ディラン氏の「風に吹かれて」の歌詞を一部取り入れました。大学が式辞をウェブ上に掲載したところ、JASRACから問い合わせがあり、使用料が発生する可能性を伝えられたといいます。
この件は朝日新聞などが報道し、JASRACは最終的に、使用料を求めない引用に該当すると判断しました。記事の記者は、問い合わせの段階でも利用する側が表現を控えるおそれがあると指摘しています。ここでは、使用料を徴収しなかったという経緯と、権利行使が表現に与える影響についての記者の見解が示されています。
管理事業の競争と、利用を遠ざけるリスク
記事によると、著作権管理事業の規制緩和によってJASRACだけが担う状況が終わってから、四半世紀が経過しました。競合するNexToneのシェアは約1割で、原盤の供給を含む管理事業以外の分野にも進み、業績は好調だと紹介されています。
記者は、管理事業者の競争によって作り手の収入が増え、次の楽曲制作を後押しする効果を期待しています。その一方で、権利の主張が行き過ぎれば音楽の利用が減り、ほかの分野も含めて創作をためらわせる可能性があると論じています。また、今後のAI関連企業との交渉については、法的な根拠の不透明さや海外の管理団体との協力を、注視すべき点に挙げています。
分析編集部の見方
ここからは、上の事実をもとにした編集部の考察と創作への応用ポイントです。
引用の役割と、対立する人物の目的を分けて考える
小説の推敲に持ち帰るなら、まず既存の歌詞や文章を登場させる場面について、その言葉そのものが必要なのかを点検してみましょう。人物の懐かしさを描きたいのか、作品について論じさせたいのかで、場面の作り方は変えられます。必要な効果を一行でメモし、歌詞を直接書く案と、聴いた人物の記憶や反応で伝える案を比べると、表現上の目的が明確になります。これは適法性の判定とは分けて行う、構成上の検討です。
また、京大の事例で使用料が不要と判断されたことを、別の利用にもそのまま当てはめる読み方は避けたいところです。創作上の参考にするなら、結論だけでなく、問い合わせから判断に至る過程に目を向けられます。権利をめぐる対立を物語にする場合も、守る側を単なる障害役にせず、収益を確保したい担当者、作品を紹介したい利用者、次の制作を続けたい作者の目的を別々に設定してみましょう。それぞれが何を失うと恐れているかを決めると、交渉の場面に具体的な緊張を持たせられます。
BunCho で試すなら
AI BunCho のスタジオ(/ai-studio)で、架空の作者と作品の利用を希望する人物を置き、双方が守りたいものを一つずつ設定します。同じ相談場面を、相手の説明を聞く展開と、最初から要求を突きつける展開の二通りで書き比べてみましょう。生成した文章は法律上の判断には使わず、人物の目的が台詞や行動から読み取れるかを中心に推敲します。
よくある疑問
京都大学は、式辞に掲載した歌詞の使用料を支払ったのですか?
JASRACは最終的に、使用料を求めない引用に当たると判断し、この件では徴収しませんでした。
記事は、著作権管理事業者の競争をどう捉えていますか?
作り手の収入増や次の制作への意欲につながる効果を期待する一方、過度な権利主張が利用や表現を控えさせる可能性にも注意を求めています。
出典・一次情報・参考資料
- 著作権は守るほどいいのか JASRACを20年追って見えたもの asahi.com · 2026-10-30
記事のデータおよび検証情報は2026年10月30日時点のものです。