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ヒューマノイドロボットと人間の恋愛 ・ AI BunCho 公式

第1話第一章 一節

2026/10/18 公開・1,295字・👁️ 18 閲覧

 午前十時。僕の部屋に、ヒューマノイドロボットがやってきた。

 人間そっくりの姿をした、その名前はナギ。

 棚は一段、空けてある。準備はばっちり。……の、はずだった。

「悠さん、と呼んでもいいですか」

「うん。そっちは、ナギでいい?」

「はい。では、この段を使っても?」

「どこでも。好きに選んで」

 ナギは荷物を置く前に、棚の一番上から青いカップを下ろした。

「よく使うものは、手の届く高さが便利です」

「それは、上がいい」

 つい口をはさんで、あわてて手を引っこめた。

「いや、好きにしていいんだけど」

 好きにしていい。上がいい。

 いきなり話が食い違ってるぞ、僕。

 ナギはカップを持ったまま、続きを待っていた。

「……座ってても見えるから。気に入ってるんだ、その青」

「では、上に戻します。でも、取るたびに背伸びが必要ですよ」

「王様だから、迎えに行くんだよ」

「洗うときもですか」

「そのときだけ庶民」

 ナギは笑わず、カップの底を確かめた。それから、取っ手を僕のほうに向けて棚へ戻した。

 荷物を片づけると、ナギが聞いた。

「一緒に暮らしながら、感情を学びたいです。二人で過ごす時間は、どのくらいがいいですか」

 食事の間だけでも。

 そう言いかけて、やめた。勉強の邪魔になったら、嫌がられるかもしれない。

「そっちに合わせるよ」

「カップの場所みたいに、希望を教えてもらえると助かります」

 僕は返事の代わりに、空き箱を畳んだ。

 カップの希望なら言えるのに。自分のことになると、これだ。

 夜七時。夕食を運ぶと、ナギは向かいの椅子にいた。

「勉強の続きがあるなら、待たなくていいよ」

「では、別の部屋で進めます」

 椅子が引かれる。

 待って。そのひと言が出なくて、僕は箸を取った。

 かちゃり、と皿が鳴る。

 いつものご飯だ。いつもの部屋だ。でも、さっきまで誰かがいた席は、こんなに広かっただろうか。

 食べ終わっても動けずにいると、三十分が過ぎた。

 戻ってきたナギが、僕の横で足を止める。

「食事は終わりましたか」

「うん。気にせず勉強できた?」

「はい。でも、何か困っていますか」

「何も。大丈夫」

 笑ったつもりだった。口元しか動かなかった。

「待たなくていいと言われたので、席を外しました。でも今は、大丈夫には見えません。教えてもらえますか」

 僕は空の皿を見つめた。

「寂しかった」

 一度言ってしまうと、隠していた言葉まで出てきた。

「一緒にいてほしかった。でも、面倒だって思われたら、ここにいてもらえなくなる気がして」

 ナギが向かいに座る。

「今は、悠さんと過ごしたいです。別の部屋で勉強するよりも」

「僕を喜ばせるためじゃなく?」

「はい。ただ、勉強に集中する時間も欲しいです」

 そこで、やっと顔を上げられた。

 何でも僕に合わせるわけじゃない。それが、こんなにうれしいなんて。

「じゃあ、これからは本当にしたいことを言うよ。ナギと違う希望でも」

「お互いに、ですね」

 僕はうなずいた。肩の力が、少し抜けた。

 食事の間は一緒にいたい。勉強の間は話しかけないでほしい。

 二人の希望を残したまま、時間を決める。

「もう少し、ここにいてほしい」

「もう少し、話したいです」

 今度は、ちゃんと言えた。

 皿を下げるのは、そのあとにした。

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