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ヒューマノイドロボットと人間の恋愛 ・ AI BunCho 公式

第4話第二章 忘れられる側 二節 そのままを望む残酷さ

2026/10/18 公開・1,326字・👁️ 19 閲覧

 二日後、技師から連絡があった。

 調べ直しても、安全な別の方法は見つからなかった。

 僕たちは二人で、その話を聞いた。

 返事をしたあとも、端末を手放せなかった。写真や動画を見る、小さな画面。そこには、二人だけで見ると約束した動画が残っている。

「一緒に見てもいい?」

 ナギがうなずいた。

 画面の中のナギは、引っ越しの荷造りをしていた。青いカップを、白い紙で包んでいる。

『王様を箱詰めにしていいのかな』

 撮っていた僕の声がした。

『移動中は庶民でお願いします。割れるので』

 僕が笑って、画面が揺れる。ナギも笑って、包んだカップを持ち上げた。

 隣のナギは、黙って見ていた。

「最初の日に、棚の上に置きたいって言ったのが始まりでさ。それから、何でも王様のせいにして」

「はい。カップを人にたとえているんですね」

「そう。運ぶときだけ、急に扱いが悪くて」

 説明すればするほど、画面の笑い声が遠くなる。

「意味は分かります」

 ナギが口元に指を当てた。

「ここで、笑ったんですね。私は」

 もう一度、再生のボタンを押しかけた。

 これを見れば。もう一回見れば。

 ……何を期待しているんだ、僕は。

「思い出そうとしなくていい。閉じるね」

「すみません」

「謝らないで」

 それだけは、すぐに言えた。

 なのに画面を閉じる前に、ほかの録音がいくつあるか、確かめてしまった。

 寝室で横になったナギの手を握る。

 返事が途中で止まるたびに、僕は握り直した。

「忘れられるのが怖い。知らない人になるのが」

 しばらくして、ナギが答えた。

「今も、愛しています」

 その言葉にすがりたくなった。

 でも、続きがあった。

「でも、苦しいです。考えていることが、途中で分からなくなります。思い出そうとすると、もっと苦しくなります」

 ナギの指が、ぎゅっと固くなった。

「忘れることになっても、生き延びたいです。修理を受けさせてください」

 端末には、まだ別の笑顔が残っている。

 別の動画なら、思い出せるかもしれない。

 でも、そのために待つのか。またこの手が固くなるまで。ナギが苦しむのを、目の前で見ながら。

「……別の方法がなければ、待たないって約束したね」

 ナギの指を、一本ずつ支え直した。

「結果を聞いたとき、すぐ連絡すればよかった。怖くて、動画を見せた。ごめん」

 謝っても、ナギの手から力は抜けなかった。

 僕はその手を離さず、施設へ電話をかけた。

「もう、先延ばしにしません。修理の準備をお願いします」

 施設であらためて検査を受け、着替えを終えるころには、外は暗くなっていた。

 修理室の手前の部屋で、技師が記録を開く。

「今のナギさんは、修理で何が起きるかを十分に理解して、選ぶことが難しくなっています。受けたいという希望は確認できました。ただ、今は一人で同意できる状態ではありません」

 僕は黙って続きを聞いた。

「前に登録した希望にしたがって、悠さんに代わりの同意をお願いします」

 技師がナギにも、修理を望むか聞く。

 ナギはうなずいた。

「受けたいです」

 同意書が置かれた。修理を認めるための書類だ。

 最後の点検が終わったら、名前と、説明した内容をもう一度確かめるという。

 紙には、ナギが自分で決めた希望が添えてあった。その下に、僕の名前を書く場所がある。

 まだ何も書かれていない。

 僕は、隣にある手に触れた。

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