一緒に暮らし始めて二週間。僕たちは、新しい部屋を見に来ていた。
今の部屋に住めるのは、あと少し。次は、二人で選びたかった。
窓から明るい光が入っている。
「ここにテーブルを置きたい。朝、明るいところで食べられたらうれしい」
「通り道も空けたいです。椅子を引いても、隣を通れるように」
床の長さを測って、二人で立つ場所を変える。今のテーブルなら、どちらの希望もかないそうだ。
「これからも一緒に暮らしたい。勉強のためだけじゃなくて」
言ってから、どきどきした。
でも今度は、取り消さない。
「私もです。話の続きを、明日もここでしたいです」
ナギが窓辺で、向かい合って座る場所を指した。
「この部屋がいいです」
「うん。ここにしよう」
部屋の図面に、テーブルを描き足した。
一週間後。引っ越しの箱から、青いカップが顔を出した。
ナギが新しい棚の前で止まる。
「王様の席は、こちらで?」
「覚えてたんだ」
「引っ越しなので、王国もお引っ越しです」
まじめな顔で言うから、僕は吹き出した。
「今度は下でもいいよ。ナギが使いやすいように」
「いいえ。ここなら、座った悠さんにも見えます」
僕が背伸びのまねをすると、ナギはカップを渡す代わりに、空いた手で僕の手を受け止めた。
「まだ洗っていません。今は庶民です」
「王様、忙しいな」
笑って手を引こうとしたら、少しだけ握り返された。
……それは、ずるい。
笑ったまま、顔が熱くなった。
夜。窓辺のテーブルで、片づけの話が終わった。
それでも、席を立ちたくない。
「愛してる。一緒に暮らすだけじゃなく、恋人になりたい」
言えた。
なのに、ひざの上で握った手は震えていた。
「同じ気持ちじゃなくても、本当の答えを聞きたい」
ナギはしばらく考えた。
「荷造りをしていても、食事の時間が近づくと、悠さんと話したくなりました。今日も、作業のあとに一緒に座れるのを楽しみにしていました」
テーブルの上に、手が差し出される。
「この気持ちを、愛と呼びたいです。恋人になりたいです」
僕はその手を取った。指が、そっと握り返してくる。
いつからそう思っていたのか、少しずつ話した。
青いカップが、二人の席から見える場所にあった。
翌朝、残りの箱は夕食のあとに開けようと約束した。
「最初はどの箱?」
「王様の家来たちから。お皿がないと、夕食に困ります」
「カップ一個で、ずいぶん偉くなったな」
ナギが短く笑った。覚えた冗談を試すときとは違う、自然な笑い方だった。
その数分後。
「荷物の片づけは、いつにしますか」
僕は顔を上げた。
冗談の続き、だよな?
でも、ナギは静かに答えを待っていた。
「今、夕食のあとって決めたよ。家来たちからって」
「……その話をした記憶がありません」
聞き違いであってほしかった。
けれど、どの箱から開けるか話したことも、ナギは覚えていなかった。
「忘れた感じも、ないんです」
テーブルの上の手に、僕の手を重ねた。
「大丈夫って言いたいけど、まだ分からない。一緒に相談しに行こう」
ナギがうなずく。
さっきまで笑っていた。そのことは、僕だけが覚えていた。