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ヒューマノイドロボットと人間の恋愛 ・ AI BunCho 公式

第3話第二章 忘れられる側 一節 消さなければ救えない

2026/10/18 公開・1,236字・👁️ 15 閲覧

 翌朝、僕たちはロボットを修理する施設へ行った。

 ナギが借りた検査着に着替えると、名札をつけた技師が来た。ロボットを直す専門家だ。

「体の中に残っている、動作の記録を調べてもいいですか」

「はい。原因を知りたいです」

 機械がつながれ、検査が始まった。

 昨日のことを二人で説明してから、画面の前に並んで座る。

「壊れているのは、経験をもとに『自分らしさ』を作る部分です」

「休めば、戻りますか」

「いいえ。今も、少しずつ悪くなっています」

 僕はナギの手を握った。いつもと同じ強さで、握り返してくれる。

 こんなに普通なのに。

「直せますか」

 ナギが聞いた。

「直せます。ただ、その部分を一度消して、作り直す必要があります。二人で暮らした記憶も消えます」

 窓辺のテーブルが浮かんだ。

 差し出された手。恋人になりたいと、言ってくれた夜。

「あの、恋人になった夜があるんです。その夜だけでも、残せませんか」

「記憶は、ほかの記憶とつながって、その人らしさを作っています。そこだけ安全に残すことはできません」

「じゃあ、保存して、あとで戻せば」

「壊れた部分まで、元に戻ってしまいます」

 指が引かれた。ナギが僕を見ていた。

「映像や録音は、どうなりますか」

「残ります。修理のあとも見られます。ただ、映像を見て知ることと、自分の思い出として覚えていることは違います」

「恋人だったって教わっても、愛してた気持ちは戻らない?」

「はい。声や姿、基本的な動きは変わりません。でも、一緒に過ごした記憶と、それにつながる気持ちは失われます」

 ナギは、つないだ手を見つめた。

「修理を受けなければ?」

「考えがまとまらなくなり、苦しむようになります。動けなくなる危険もあります」

 説明の紙を、もう一度読んだ。

 何度読んでも同じだった。記憶を残して助かる方法は、書いていなかった。

 相談室に移ると、ナギが言った。

「修理を受けたいです。自分で決められなくなったときは、悠さんに代わりをお願いします」

 技師はナギに、修理で何が起きるか説明してもらった。きちんと理解していると確かめてから、希望を登録する。

 僕が代わりに同意できるのは、ナギが自分では決められなくなったと、施設が確認したときだけ。

 それまでは、ナギ自身が決めるのだという。

「引き受けてくれますか」

 僕はうなずいた。声は、少し遅れて出た。

「うん。でも、もう一度だけ調べてもらえませんか。全部消さずにすむ方法を」

 技師がナギに向き直る。

「調べることはできます。ただ、待つ間にも悪くなります。それでも待ちますか」

 待ってほしい。

 言いかけて、僕は口を閉じた。

「結果を待ちたいです。私も、忘れたくありません」

 ナギの手に、少し力が戻る。

「でも、別の方法がなければ修理を。悪くなったときも、待ち続けないでください」

「……分かった」

 技師が、その約束も記録した。

 帰り支度をするナギの荷物を、僕が持った。

 まだ、忘れられずにすむ。

 一瞬でもほっとした自分が嫌で、何も言えなかった。

 修理は先送りになった。

 一時間かけて、二人で家へ帰った。

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